WAKUWAKUインタビュー
2023年11月16日

=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=
WAKUWAKUホームボランティア:阿部和美さん
聞き手:スタッフ・石平晃子
=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=

―定年を期に踏み出した一歩―

石:これまでほとんどお話する機会なかったですね。今日はゆっくりお話しできるので楽しみです。 早速ですが、普段はなにをされてらっしゃるのですか?

和:今は月に15日ほど働いています。30数年ずっと小売業で企業人として働いてきました。2021年の3月に定年となり、現在も同じ会社で再雇用として、時間や働き方などペース落としながら勤務しています。定年まではとにかく仕事に集中してきたので、60歳過ぎたら何かやりたいなと思っていたんです。それで定年になる少し前の21年1月にWAKUWAKUにメールをしました。初めは「子ども食堂」のお手伝いが出来ないかと。料理の手伝いなら最初のハードルが低いと思って。当時はコロナ禍で子ども食堂はやってなかったのですが、WAKUWAKUホーム(※以下、ホーム)は開いているとのことでお誘いをいただいたので見学に行きました。その時は来ている小学生と遊んだり、宿題をみたり、一緒に食事をしたりと「これは責任が重いな」と感じてしまいました。今もですが、当時はさらに元気で多様な子が多くて(笑)、ついていけるかなぁ少し不安もあったのですが、翌週他のボランティアさんも一緒に入るタイミングがあり、ひとりじゃないという安心感を持つこともでき、月に数日、来れるタイミングで参加させてもらう形になりました。

石:WAKUWAKUのことはどのようにして知ったのですか。

和:たまたま栗林さんがテレビのニュース番組でお話されているのを見て、豊島区にこういうNPOがあると知り、ネットで調べ、思い切ってメールをしました。あれから早くも3年近くになりますね。ボランティアを始めてしばらくしてから、当初やりたかった食事づくりをメインにお願いしますと任せていただいたので、自分でメニューを考えて、買い物して、料理するということに集中してやれるようになり、より楽しくやりやすくなったかなと思います。

石:メニュー作りで何か工夫していることはありますか。

和:バランスと手作りでしょうか。野菜をたくさん使ってあげたいというのと、普段なかなか手作りして食べないかなと思うメニュー。時にはこどもと一緒に餃子やハンバーグ作りをします。食べられない食材がみんなそれぞれあるので、なるべくみんなが一緒に食べられるものを作る。あとはお安くですね。自分で決めた予算内に収めるというやりくりも結構達成感を感じて楽しいです(笑)そんな風に任せていただいているのが面白く、やりがいがあります。

石:でも子どもとの接点は少なくなってしまいましたか。

和:いえ、そんなことはないですよ。手伝ってくれることもあったり、味見してもらったり。一緒に作ることもあります。子どもがやりたいと思うことを一緒にやっている感じです。私が料理していると、「今日は何?」と聞かれたり、食べながら「次は何にしようか?」と会話したりして、接点は変わらないと思います。

石:料理を中心に子どもと会話が弾んでる感じなんですね。

和:はい、そうですね。
自分が子育ての経験をしていないので、何か世の中のためにできることをするなら、子どもに関することというのが第一優先でした。その点からもWAKUWAKUは自分の希望にあっていました。あと小売業には、女性のスタッフも多く、共働きやシングルで子育てして頑張っているお母さんもいっぱいいます。上司として支えてきましたが、もう少し枠を超えてサポートしたいなぁと思っていました。ここのように夕食まで面倒みるというのは、世の中的にもなかなか他にないと思います。今、そんなことに関われているというのも自分のモチベーションの一つです。現役の時は休みも不定期でしたし、帰宅時間も遅かったので関心があっても無理でしたが、今は自分の時間や気持ちにも余裕ができてやれています。

―職場とは違う新鮮さを楽しむー

石:関わる以前に思っていたことと、実際にやってみてギャップはありますか?

和:子どもたちがすごく元気で明るいということですね。実はもっと困っている様子の人たちが来ていると勝手に思ってしまっていました。私は子どもの家庭の状況はわからないので、あくまでここで過ごしている様子のことですが、みんなすごく元気で明るくて楽しくて、いつもこちらがパワーをもらっています。元気すぎてついていけない時もありますが(笑)

石:なんでここではそんなに元気なんでしょうね。

和:ここには、色んな大人がいます。親でもない、先生でもない、私のようなご近所のおばさんって感じの人もいれば、ボランティアさんの中には中国出身の学生さんもいます。あと子ども同士も同学年ばかりではなくて、ルーツも多様、そういう枠にはまってない感じが自由でいいんだと自然体でいられることに繋がっているのかなと思います。
例えば、会社ですと年齢やキャリアなどを聞かれるのは当たり前、そして会社が掲げる目標を共有して、当然利益の追求もあり、みんな同じ価値観や方向性で一生懸命頑張る。でもホームでは一人ひとりがそれぞれのままでいいというか。そのままの個人を受け入れているというか。その不思議な感覚に最近やっと慣れてきました。もちろんWAKUWAKUにはWAKUWAKUの追求したいことがあると思いますが、でもそういうことを普段感じさせない、いろいろな人が重なってサポートしあって成り立っている。そして、そんな場所に子ども達が楽しそうに来ている。私は今までにない経験したことのない感覚でいいなと思います。

―ちょっと無理する、でも完璧を目指さないー

石:定年後に何かボランティアしたいなと思っている人も少なくないと思うのですが、和美さんの経験から何かお伝えしたいことありますか。

和:私は定年の2カ月前に出会えて本当によいタイミングでした。したくても探せない人もいっぱいいると思います。なかなか一歩を踏み出せない人も。ひとつ始めると、次はWAKUWAKUの「地域がつながるプロジェクト」のビジターになったり、他の子ども食堂のお手伝いとしてお声がかかったり、ここに来ている子の送迎をするためにファミリーサポートのサポーターになったり、最初の一歩のあと次々とこどもという視点を通じて地域とのつながりや自分のやりたいことが広がっていきました。
これから80歳くらいまで元気かなぁと思うと、あと20年何をやるかって大切ですよね。私の場合、たまたま一歩目が自分に合っていましたが、そうでない場合もあると思います。でもそれはまた次を探せばいいだけで、あまり完璧を求めず一歩を踏み出してみるといいと思います。私は小売業で働いているということもあって、「ありがとう」という言葉にモチベーションがあがって幸せを感じるんです。この年齢になって子どもに「美味しかったよー」って言われたり、こちらが逆に子どもに「お手伝いありがとう」って伝えたり。こんなやりとりが自分のやりがいや、日々の幸せ感につながっています。
行動を起こすことでしか新しい経験は得られないと思うので、めんどうでもちょっと踏み出してみるといいなと思います。初めてホームに来た時、必ず何時間いないといけないとかがなくてびっくりしました。自分のできる時間に自分がやりたいこと、共感することを無理がない範囲でやるのがいいと思います。もしかしたら企業にいた人はきちんと真面目に考えすぎて、自分自身でハードル上げているかもしれません。気軽に一歩を踏み出してみるのがいいと思います。

石:役に立たなくちゃと考え過ぎちゃう。

和:そうですね。私も最初は本当に自分で大丈夫かなぁ、役に立てるのかなぁって、すごく思ってました。周囲からの評価とか気にしちゃうんですよね。実は初めて来た時もあまりに何も言われたり聞かれなかったのが新鮮で、これでいいのか心配になるくらいでした(笑)
以前、私の上司だった方から「退職したあと、自分にちょっと無理をするのが大事だよ」と教わりました。ちょっと無理することが、結果として自分の喜びや体を動かすことで健康に繋がると。ちょっと面倒だなと思っても行く、メニュー考えたりするのも面倒だなと思うこともあるけど、ちゃんと考えると子ども達が喜んでくれて、自分の居場所を自分で作ることになる。ボランティアはいつも楽なことばかりじゃないですが、でもやったことは自分のやりがいや、楽しさとして還ってきています。

石:企業で管理職まで経験されていて、きっと達成しなければいけないことのためにすごく頑張ってこられたんじゃないかと思うんです。一方ホームの子達、ゆるいじゃないですか。これでいいのか、頑張らないとダメなんじゃないかとか、何かそういう気持ちにかられたりはしませんか。

和:ゆるいというか自由で自然ですね。
今企業もいろいろな人がいて当たり前という感じになっています。若い世代の社員は、自分と違う新しい価値観だったりします。ホームの子どもたちは本当に多様で、いろんな価値観があって当たり前だと思うんです。今までこんなにいろいろな国の子と接したことはありませんでした。多様なことがここのすごくいいところだと思います。でもいらっしゃる人の中には、こんなに騒がしくて自由でいいのかとか思う人もいると思います。私もはじめはびっくりしました(笑)。そこは一緒に過ごしていく中で、この関係性や自然体の良さが少しずつわかっていくのかなと思います。

石:私も60歳過ぎたらボランティアでゆとりある関わりをしていけたら、、、理想ですね。WAKUWAKUスタッフが高齢化する前に、働く場は若い人に引き継いでいって。

和:本当にいい活動なので、いいかたちで継続・継承していってほしいです。

石:企業人だった方の視点でお話が聞けた貴重な機会でしたし、和美さんがここで心地よく関わってくださっていることが伝わってきて、とても嬉しかったです。

今日はどうもありがとうございました。