文章:山田 和夫

自宅を改装して私の妻が25年前にパン屋を始めました。天然酵母にこだわったパン屋です。自宅には早朝からパン職人さんが出入りをして、いつも賑やかでした。地域のいろんな方がパンを買いに、家を訪れておりました。ですが生憎、五年ほど前に病に倒れ、亡くなりました。

同じ頃、私はサラリーマンとして勤めた会社を定年退職し、さらに原発事故の影響で息子夫婦が関西に移住し、誰も家にこない、電話もならない、一人暮らしの日々を過ごすことになりました。あの頃はどん底だったと思います。

そんなある日、大田区で「子どものための食堂」をやっていると教えてくれた方がいて、さっそく見学に行きました。子どもたちが集まって、美味しそうにご飯を食べて、一家団欒の暖かさがあり楽しそうでした。これと同じことを要町の私の家を開放して出来ないだろうか・・・

地域の方に声をかけられ参加した「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」の集会で、「子ども食堂、やってみたい」とつぶやいてみましたら、代表の栗林さんが聞き逃さず、その場で多くの方の賛同を得て引くに引けずに、「やりましょう」ということになりました。

それからの準備は大変でした。保健所の営業許可をとるために、少し家の工事をしました。食材をどうするか、調理のスタッフをどうするか、子どもは来るだろ うか。いろいろ心配事がありましたが、妻が残しておいてくれた地域のネットワークで手伝ってくださる方が次々とあらわれ、とうとう2013年の春に、「要 町あさやけ子ども食堂」がオープン出来ました。長い夜が終わって、もうじき夜明け、でも今はまだあさやけの時。そんな気分で名前をつけました。

「子ども食堂」は、子どもだけでも入れる食堂と銘打って、一食300円で夕食を提供しています。第一・第三水曜日の17:30~19:00にオープン。食 堂には、親の帰りが遅く夕食を一人だけで食べていた子や、不登校だった子、赤ちゃん連れのシングルマザーなどが立ち寄ります。みんなで同じご飯を一緒に食 べる。食べた後は、幼児から高校生の年代の子までが、一緒になって遊びます。子どもたちはすぐに仲良くなるのです。一軒家なので、階段をのぼったり降りた りするだけでも楽しいようで、上の部屋では段ボールハウスの秘密基地やお化け屋敷ごっこが始まったり、みんなとっても楽しそうです。

6人に1人の子どもが貧困状況にあるといいます。私たちの子どもの頃は、みんな貧困でした。こんなに豊かな世の中になったのに、格差が広がっているようです。どの子も幸せになってほしいと思います。

お店の看板は、母子家庭のえむちゃんと、祖父母に育てられているわい君が作ってくれました。わい君は手先が器用で、上手に木を彫ってくれました。将来家具 職人になりたいそうです。そこにはえむちゃんが描いた、カエルの絵があります。えむちゃん曰く「おせっかえる。おせっかいをされた子がおとなになってお せっかいを返すから。おせっかえるは、やさしいピンク色なの。」

お料理は、調理を担当してくれるスタッフに加え、ボランティアをしたいという方が次々と来られ、学生さんからお年寄りまで老若男女が入りまじり、わいわいみんなで作ります。お手伝いしてくださる方々にとっても、ここが居場所になっているのを感じます。

軌道にのってきた頃、「子ども食堂」のことが、新聞やTVに紹介され始めました。それをご覧になった全国の方々から、様々な支援をいただいております。自 然栽培で作られた、お野菜・お米・味噌・じゃがいも・ジャムなどの食材や、手作りの布フキン・お寺からの「おやつのお裾分け」 遠い所ではスペインの在留 日本人の方が、実家の北海道から新巻鮭を送っていただくなどです。先日は、70すぎの男性からお手伝いの希望を頂きました。永年お寿司屋さんをやっていた そうで、子どもたちにお寿司を握ってあげたいそうです。年末のお楽しみ企画で活躍してもらいます。困っている子どもに何かできることをしたいと思ってくだ さる方がたくさんいらっしゃるんだなと思いました。そんな方々との交流も、有難く思います。

小学生の女の子ですが、学校でイジメにあい、教室に行けずに、時々保健室に登校していたそうです。その子が、子ども食堂に来るようになりました。次第に、 食べるだけでなく、お料理を運んだり、皿洗いなどのお手伝いをし始めました。そのうち、早くから来るようになり、マイスリッパを持参してまで、お料理作り に参加し始めました。小さい子どもたちとの遊び時間には、お姉さん役をやっています。この頃では、取材を受けると、自分の思っていることや考えていること を堂々と話せるようにすらなっています。

ある日、あまりの人の多さに靴を数えたら、50足あったこともありました。よくまあ、この家に50人も入るものだとびっくり。私自身、どん底だったときを振り返ると、とっても賑やかになって、こんなに幸せなことはありません。

オープンしてから一年半ほどになりますが、素敵なことがたくさん起こっています。誰がどうしたと言うわけではなく、子ども食堂という「場のちから」がそうさせているような気がします。

これからも、元気な限り、この活動を続けていきたいと思っています。


きずなづくり大賞’14 入賞作品 東京都知事賞あさやけ子ども食堂 山田和夫